職場や日常生活の中で、「言ったのに伝わっていない」「なぜか意図が伝わらない」と感じたことはありませんか?
特に、職場にASD(自閉スペクトラム症)の方がいる場合、「どう伝えたらいいのか分からない」という悩みを抱く人は少なくありません。
今回は、「ASDの人に伝わりやすい伝え方」と「誤解を招きやすい伝え方」を分かりやすく解説します。
ASD(自閉スペクトラム症)とは?
ASDとは、発達障害の一種で、生まれつき脳の機能の一部に偏りがあることによって、対人関係やコミュニケーションに苦手さを感じやすい障害です。
以前は「アスペルガー症候群」や「自閉症」といった診断名がありましたが、現在はこれらをまとめて「自閉スペクトラム症(ASD)」と呼びます。
ASDの方の対人スタイルは大きく4つのタイプに分けられます。
- 孤立型:他人と関わることをあまり望まないタイプ
- 受動型:自分からは関わらないが、話しかけられると応じるタイプ
- 積極奇異型:積極的に関わるが、距離感や空気が読めないタイプ
- 存在型:周囲に合わせて行動するが、内心は強いストレスを抱えているタイプ
同じASDでも、性格や特性の現れ方は人それぞれです。そのため、画一的な対応ではなく、一人ひとりの理解が大切になります。
ASDの人が理解しにくい伝え方5つ
① 口頭だけで指示をする
ASDの人の中には、「耳から入る情報の処理」が苦手な方が多くいます。
そのため、口頭で複雑な指示を受けると、内容を正確に記憶・整理することが難しい場合があります。
逆に、**視覚的な情報(文字や図など)**で示すと理解がスムーズになるケースが多いです。
「口頭だけで伝える」のではなく、「書面やチャットで残す」ことを意識しましょう。

② 曖昧な表現を使う
「できるだけ早く」「いい感じに」「いつも通りに」などの曖昧な表現は、解釈の幅が広く、誤解を生みやすいです。
「できるだけ早く」は人によっては「今日中」かもしれませんし、「1週間以内」かもしれません。
ASDの方は、言葉を文字通りに受け取る傾向が強いため、
「今日の15時までに提出してください」など、具体的・数値的に伝えることが大切です。
③ 間接的な表現を使う
「今日忙しいなぁ」と言って「手伝ってほしい」という意図を込めたとしても、ASDの方にはその「裏の意味」が伝わらないことがあります。
「忙しい」と聞けば「そうなんですね」と受け取るのが自然だからです。
「手伝ってほしい」と思うなら、遠回しな表現ではなく、「この作業を手伝ってもらえますか?」と明確に頼むことが必要です。
また、「ポスト見てきて」と言われて「見ただけで帰ってきた」というエピソードのように、
字面どおりに受け取ることが多いため、「ポストを見て、郵便物があれば持ってきてください」といった具体的な言い方が効果的です。
④ 社交辞令や冗談を使う
社交辞令や皮肉、冗談のような「言葉に隠された意味」は、ASDの人には伝わりにくいことがあります。
たとえば、冗談で「またやっちゃったね〜」と言ったつもりでも、相手はそれを真剣に受け止めてしまう場合があります。
「本音」と「建前」を分けて話す文化に馴染みにくいという特徴もあるため、
言葉の裏を読み取ることを求めず、シンプルで誤解のない表現を心がけましょう。
⑤ 暗黙の了解に頼る
「新人は掃除をする」「上司の誘いは断らない」など、職場にある“暗黙のルール”は、明確に言葉にしなければ伝わりません。
ASDの方にとって「空気を読む」ことは非常に難しいスキルです。
そのため、「言わなくてもわかるでしょ」ではなく、「この仕事は新人の担当です」「この時間は会議です」など、
ルールや慣習を明文化して伝えることが重要です。
ASDの人に伝わりやすい正しい伝え方
① 指示やルールをマニュアル化する
可能な限り、業務内容やルールをマニュアル化し、文字として残しましょう。
ASDの方は、一度理解した手順を正確に守るのが得意な傾向があります。
また、口頭で伝える場合でも、ゆっくり・区切って話す、聞き返しを許容する雰囲気を作るなど、理解を確認しながら進めることが大切です。
録音を許可し、後で聞き返せるようにするのも有効です。
② 具体的・定量的な表現を使う
「だいたい」「できるだけ」などの曖昧な表現を避け、数字や具体的な期限を示すようにします。
例:
×「できるだけ早く」
〇「今日の15時までに」
数字や時間は誰にとっても同じ意味を持つため、誤解を最小限にできます。
③ 言葉と行動の目的を一致させる
「忙しい」ではなく「手伝ってほしい」
「ポスト見てきて」ではなく「郵便物を取って持ってきて」
のように、相手にしてほしい行動を明確に言葉にすることが重要です。
少し説明が長くなっても、誤解を防げる方が結果的に効率的です。
④ 暗黙のルールは言葉にして伝える
「新人が掃除をする」「昼休憩は12時から」など、
組織内で当然とされているルールも、きちんと言葉にして説明しましょう。
ASDの方はルールを守る誠実さを持っています。
はっきり伝えれば、誤解なくスムーズに行動できます。

困ったときは専門機関に相談を
ASDの方との関わりに悩むときは、企業側もサポートを受けることができます。
各都道府県にある障害者職業センターでは、専門スタッフ(ジョブコーチ)が職場に派遣され、
「どのように伝えればよいか」「環境をどう整えればよいか」といった具体的なアドバイスを行っています。
また、就労移行支援事業所を利用している方を採用する場合、
支援員が継続的にフォローしてくれるケースもあります。
一人で抱え込まず、専門機関と連携することが職場の安定にもつながります。
まとめ
ASDの方とのコミュニケーションで大切なのは、
「曖昧さをなくし、具体的に・見える形で伝える」ことです。
指示を文章で残す、数字で伝える、行動を明確に言葉にする——
これらを意識するだけで、誤解やトラブルを大きく減らすことができます。
発達障害を理解し、誰もが安心して働ける環境づくりを目指しましょう。