私たちは日々の生活の中で、仕事の指示を受けたり、友人や家族と話したりしながら多くの情報を処理しています。しかし、発達障害の特性をもつ人の中には、「頭の中がごちゃごちゃして整理できない」「話している途中で何を言いたいのかわからなくなる」といった困りごとを抱える方が少なくありません。
ここでは、発達障害の特性を踏まえながら、思考を整理し、スムーズにコミュニケーションを取るための工夫を丁寧に解説します。
発達障害とは?
発達障害とは、生まれつき脳の機能の一部に特性や偏りがあることで、社会生活や対人関係、仕事などに困りごとが生じやすい状態を指します。代表的な分類には以下の3つがあります。
- ADHD(注意欠如・多動症):注意の持続が難しい、不注意や衝動的な行動が多い、じっとしていられないなどの特徴があります。
- ASD(自閉スペクトラム症):対人関係やコミュニケーションに苦手さがあり、物事への強いこだわりや感覚の敏感さなどが見られます。
- LD(学習障害):読む・書く・話す・聞く・計算するなどの一部の学習能力に困難がみられます。
これらは「怠け」や「性格」の問題ではなく、脳の情報処理の仕方の違いによるものです。そのため、周囲の理解と、本人に合った工夫がとても重要です。
発達障害の人が思考整理を苦手とする理由
特にADHDの人に多い特徴として、「頭の中が常にいろいろなことでいっぱいになってしまう」という傾向があります。やらなければならないことや、過去の失敗、不安、人間関係の悩みなどが次々と浮かんできて、優先順位をつけることが難しくなります。
その背景にあるのが「ワーキングメモリ(作業記憶)」の弱さです。
ワーキングメモリとは、短期間で情報を一時的に保持しながら処理する能力のこと。たとえば、「上司に頼まれた書類を仕上げたら、そのままメールで送っておこう」という流れを頭の中で覚えておくのも、このワーキングメモリの働きです。
この機能が弱いと、「書類はできたけど送信を忘れた」「別の仕事を思い出して中断したまま」といったことが起こりやすくなります。
さらに、ASDの人は「物事を順序立てて整理すること」や「抽象的な情報をまとめること」が苦手な傾向があります。複雑な状況を俯瞰して考えるのが難しく、思考が細かい部分にとらわれてしまうのです。
また、仕事や人間関係の不安、トラブルが多いと、ネガティブな感情が頭の中を占領してしまい、思考の整理がますます難しくなります。不安や焦りはワーキングメモリを消耗させるため、「考えがまとまらない」「人の話が入ってこない」といった状態に陥りやすくなります。
思考整理が苦手だと起きる問題とその対策
① 複数の話や会話が処理できない

会議や打ち合わせで複数の人が同時に話していると、どの話題に集中すべきかわからなくなることがあります。また、同時に複数の情報を処理することが苦手なため、「結局、何を頼まれたのかわからない」と感じることもあります。
対策:
- 一度に話す人数を減らし、「1対1の会話」を心がける。
- 口頭での指示よりも、メールやチャットなどテキストでのやり取りを活用する。
- 会議中の内容は録音やメモを取り、あとでゆっくり復習する。
- 可能であれば、指示を出す人を一人に絞ることで混乱を防ぐ。
こうした工夫によって、情報の整理がしやすくなり、相手の意図を正確に理解することができます。
② 予定を忘れたり、仕事をやり忘れたりする
「明日やろう」と思っていたことをすっかり忘れてしまう、頼まれた仕事を途中で抜け落としてしまう――。このような「抜け」が多いのも、思考整理の苦手さに関連しています。
対策:
- Todoリストアプリや付箋メモを活用し、頭の外に情報を出す。
- 「仕事を終えたらチェックマークをつける」など、視覚的に完了を確認できる仕組みをつくる。
- スケジュールアプリやカレンダー通知を使ってリマインドを設定する。
頭の中だけで覚えようとせず、「見える化」することで、記憶の負担を減らすことができます。
③ 注意がそれて集中できない
ADHDの人に多いのが、「話している最中に別のことを考えてしまう」「興味が移りやすく話が脱線してしまう」といった傾向です。外部の刺激に注意が向きやすく、会話中でも他の音や人の動きが気になってしまいます。
対策:
- 会話では結論を端的に話す意識を持つ。
- 雑音や人の出入りが少ない場所で作業する。
- 耳栓やパーティションなど、物理的に集中できる環境を整える。
- 不安や悩みごとはため込まず、早めに相談する。
思考を整理するためには、頭の中をシンプルに保つことが大切です。「今やることはこれだけ」と明確にしておくと、余計な考えに引きずられにくくなります。
思考整理のコツは「外に出す」こと

発達障害の人がうまくコミュニケーションを取るためには、「考えを頭の中に留めず、外に出す工夫」が有効です。
具体的には次のような方法があります。
- メモ・ノート・アプリを使って思いついたことを書き出す
- 伝えたいことを「①結論 → ②理由 → ③補足」の順で整理してから話す
- 人に伝える前に、一度紙に書いて「言いたいこと」を可視化する
- 感情が高ぶった時は、いったん深呼吸し、少し時間をおいてから話す
こうしたステップを踏むことで、「話が伝わらない」「誤解される」といったトラブルを減らすことができます。
まとめ:焦らず、少しずつ自分のペースで
発達障害の特性による「思考の整理のしづらさ」や「コミュニケーションの難しさ」は、努力不足ではありません。脳の特性に合わせて環境を整え、道具を上手に使うことで、少しずつ改善していくことができます。
大切なのは、「うまくやらなければ」と自分を追い詰めないことです。
頭の中が混乱してしまったときは、一度立ち止まり、「紙に書く」「一人にだけ相談する」「録音して振り返る」といった、自分に合った方法で整理してみましょう。
思考を整理しやすくなると、相手の話も理解しやすくなり、自分の気持ちも穏やかに伝えられるようになります。
焦らず、自分のペースで少しずつ「伝わるコミュニケーション」を育てていくことが、発達障害と上手につきあう第一歩なのです。