発達障害は、生まれつき脳の発達に偏りがある先天的な特性であり、後天的な原因によって発症するものではない。大人になってから自分が発達障害であることに気づいたという人も多いが、その特徴は実は幼少期から表れている。子どもの頃は気づかれずに「少し変わった子」とされていた人が、社会人になって初めて診断を受けるケースが増えているのだ。特にASD(自閉スペクトラム症)は、成長とともに特性の現れ方が変化するため、周囲も本人もその特性に気づかないまま過ごすことがある。
本記事では、大人になってASDに気づく人が多い理由と、子どもの頃に見られるASDの特徴について解説する。
大人になってASDに気づく人が多い理由
1. 特性が表面化しにくかった
ASDの人が大人になるまで診断を受けずに過ごしてしまう大きな理由の一つに、「特性が目立ちにくい時期があった」という点がある。
学生の頃は、授業のスケジュールが決まっており、周囲の人間関係も限られている。指示された通りに行動すれば大きな問題にならないことが多く、多少の不器用さや違和感があっても、本人も周囲も深刻に受け止めない。例えば、集団行動が苦手でも「マイペース」「個性的」といった言葉で片づけられることがある。
しかし、社会人になると状況は一変する。仕事では臨機応変な対応が求められ、人間関係も複雑になる。曖昧な指示を理解できずミスが増えたり、同僚とのコミュニケーションがうまくいかず孤立したりするうちに、「自分は他の人と何か違うのでは」と気づく人が少なくない。これをきっかけに精神科や発達外来を受診し、ASDの診断を受けるケースが増えている。
2. 認知度が低かった
もう一つの理由は、「発達障害」という概念自体が社会で認識されるようになったのが比較的最近であることだ。
発達障害の診断を受ける人の数は、2008年から2020年の間でおよそ7倍に増えている。しかし、これは発達障害の人が急増したという意味ではない。以前は単に「性格の問題」「しつけの問題」とみなされていた人たちが、近年になって正しく診断されるようになったという背景がある。
特に昭和・平成初期の時代には、ASDという言葉自体が一般にはほとんど知られていなかった。そのため、教師や親も特徴を理解できず、診断を勧めることがなかった。結果として、当時の子どもが大人になってから初めて診断を受け、「これまで生きづらさを感じていた理由がわかった」と感じるケースが増えている。
つまり、診断数の増加は認知度の向上によるものであり、実際の発達障害の人数そのものは、昔も今も大きく変わっていないと考えられている。
子どもの頃に見られるASDの特徴3つ
ASDは、社会的なコミュニケーションの難しさや、こだわりの強さ、感覚の偏りといった特徴がある。これらの傾向は幼少期から見られるが、周囲が「性格」や「個性」として受け止めてしまうことも多い。ここでは、子どもの頃に見られるASDの典型的な特徴を3つ紹介する。
1. 友達になじむことができない

ASDの子どもは、人の気持ちを想像したり、相手の立場になって考えたりすることが難しい。そのため、友達との関係でトラブルを起こしやすい傾向がある。
例えば、相手が冗談を言っていることに気づかず真に受けてしまう、相手の反応を無視して自分の話ばかりしてしまう、といった行動が見られる。また、集団の中にいても一人でいることを好み、積極的に他の子どもと関わろうとしない場合もある。
このような行動は、本人が悪意を持っているわけではない。コミュニケーションの「暗黙のルール」を理解しづらいだけなのだ。しかし、周囲の子どもからは「変わった子」「話が通じない子」と見られることがあり、孤立してしまうこともある。
2. こだわりが強い
ASDの子どもは、特定の物事に強い興味を示すことがある。例えば、電車や地図、特定のキャラクターなど、狭い分野に深い関心を持ち、同じ遊びを繰り返す傾向がある。
また、自分なりのルールや手順を強く重視し、それが崩れると強いストレスを感じることがある。たとえば、「朝はこの順番で準備しないと気が済まない」「いつもと違う道を通るとパニックになる」などの行動が見られる。
こうしたこだわりは、周囲から見ると頑固に映るが、本人にとっては安心感を保つための大切な習慣である。環境の変化に適応するのが難しいため、同じ行動を繰り返すことで心の安定を保っているのだ。
3. 感覚の偏り
ASDの特徴の中でも比較的見落とされやすいのが「感覚の偏り」だ。感覚が過敏な子どもは、音や光、触覚などに強い不快感を示す。例えば、蛍光灯のチカチカした光を嫌がる、服のタグの感触を不快に感じる、大きな音にパニックを起こす、といった反応が見られる。
一方で、痛みや温度の感覚が鈍い「感覚鈍麻」の傾向を持つ子どももいる。転んでも痛がらない、暑さや寒さに無頓着、といった行動が見られることもある。
また、不器用さが目立つ場合も多く、ボール遊びや工作などの手先を使う活動が苦手なことがある。これらの特性は、本人の努力不足ではなく、脳の感覚処理の違いによるものである。
早期理解と支援の重要性
ASDは「治す」ものではなく、特性を理解し、環境を整えることで生きづらさを軽減できる。
子どもの頃から特性を理解してもらい、得意なことを伸ばしながら苦手な部分をサポートしてもらうことが重要だ。例えば、感覚過敏がある場合は静かな環境を整える、こだわりが強い場合は少しずつ変化に慣れさせるなど、本人の安心感を保ちながら支援を行うことが望ましい。
また、大人になってから気づいた場合でも遅すぎることはない。特性を理解すれば、自分に合った仕事や生活スタイルを選ぶことができる。支援機関やカウンセリングを活用し、自分に合う環境を整えていくことが大切だ。

まとめ
発達障害は先天的なものであり、成長過程で周囲の理解や環境の影響によってその表れ方が変化する。大人になってASDに気づく人が多いのは、子どもの頃に特性が目立ちにくかったことや、当時は認知度が低かったことが大きな要因である。
しかし、子どもの頃を振り返ると、友達との関わりに違和感があったり、強いこだわりや感覚の偏りが見られたりと、特徴が確かに存在していたことに気づく人も多い。
大切なのは、「気づいた時点からどう向き合うか」である。自分の特性を理解し、適切な支援や工夫を取り入れることで、生きづらさを軽減し、自分らしく社会で活躍できるようになる。ASDの特性は決して欠点ではなく、理解と工夫によって強みに変えることができるのだ。