発達障害の方に向けたコミュニケーショントレーニングとは
はじめに
人間関係や社会生活を送る上で、欠かすことのできないのが「コミュニケーション」です。仕事、学校、家庭など、どの場面においても人との関わりは生じます。しかし、発達障害の特性を持つ方の中には、このコミュニケーションに苦手意識を抱えている人が少なくありません。「相手の気持ちを読み取れない」「会話が噛み合わない」「どう接していいのか分からない」といった困りごとが重なると、人間関係がうまくいかず、自信を失ってしまうこともあります。
そこで注目されているのが コミュニケーショントレーニング、特に「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」です。本記事では、発達障害の方がなぜコミュニケーションを苦手とするのか、そしてどのようなトレーニング方法があるのかを詳しく解説していきます。
発達障害とは何か
「発達障害」とは、生まれつき脳の一部に機能の偏りがあるために、生活の中で困りごとを抱えやすい障害の総称です。大きく分けると以下の3つに分類されます。
- ADHD(注意欠如・多動症)
集中が続きにくい、不注意が多い、衝動的に行動してしまうといった特徴がみられます。 - ASD(自閉スペクトラム症)
人との関わりやコミュニケーションが苦手、こだわりが強い、感覚過敏などの特性がみられます。 - LD(学習障害)
読む・書く・計算するなど特定の学習において著しい困難が生じます。
同じ発達障害であっても、一人ひとり特性の現れ方は大きく異なります。そのため「自分にはどの部分で困りごとがあるのか」を理解することが、トレーニングを進める第一歩となります。
発達障害の方が抱えやすいコミュニケーションの困難

発達障害の特性は、日常の会話や人間関係にも影響します。ここでは代表的な課題を6つ取り上げます。
- 感情コントロールが苦手
些細なことで怒りや不安が爆発してしまい、相手を驚かせたり距離を置かれたりすることがあります。 - 会話が噛み合わない
話題の切り替えが苦手で一方的に話し続けたり、相手の意図を理解できずにずれた返答をしてしまうことがあります。 - 相手の感情や場の空気を読み取りにくい
表情や声のトーンから気持ちを察するのが難しく、誤解を招くことがあります。 - あいまいな表現が理解しにくい
「そのうち」「適当に」などの抽象的な言葉を理解できず、混乱することがあります。 - 人との距離感がわからない
近づきすぎたり、逆に距離を取りすぎたりして相手に不快感を与えることがあります。 - 読む・書くなどの手段が苦手
メールや書類作成での表現が難しく、誤解やトラブルが生じる場合があります。
これらの困難は決して「努力不足」ではなく、特性によるものです。だからこそ、適切なトレーニングを通じて補っていくことが大切なのです。
コミュニケーションスキルを高めるための方法

発達障害の方がコミュニケーションを学ぶ代表的な方法が SST(ソーシャルスキルトレーニング) です。
ソーシャルスキルとは?
ソーシャルスキルとは「社会の中で他者と良好な関係を築きながら、自分の思いや考えを適切に伝える力」のことです。例えば、挨拶の仕方、頼みごとの伝え方、断り方、相手の立場を考えた発言などが含まれます。
多くの人は成長の過程で自然に身につけますが、発達障害の特性を持つ方はこの習得が難しい場合があります。その結果、大人になってから人間関係や仕事の場面で困難を感じやすくなるのです。
SSTの進め方
SSTは段階を踏んで行われます。ここでは一般的な流れを紹介します。

- 教示(きょうじ)
まず「なぜそのスキルが必要なのか」を説明します。必要性を理解しないまま練習しても意欲につながらないため、最初の動機づけが重要です。 - モデリング
適切な行動と不適切な行動の両方を手本として示します。例えば「正しい挨拶の仕方」と「不適切な挨拶の仕方」を比較し、どこが違うのかを考えてもらいます。 - リハーサル(ロールプレイ)
実際に場面を想定して練習します。例えば「初対面の人に自己紹介する」場面を演じ、体験を通じて学びます。 - フィードバック
練習した内容について、良かった点や改善点を具体的に伝えます。本人が気付けなかった部分を客観的に知ることで、スキルが定着しやすくなります。 - 般化(はんか)
最後に、学んだスキルを実際の生活に生かす練習を行います。例えば職場や学校など、現実の場面で使えるように繰り返し練習します。
このように、SSTは単なる「座学」ではなく、実践を通じて身につけていく点が特徴です。
SSTはどこで受けられるのか
大人の発達障害の方を対象としたSSTは、以下のような場で行われています。
- 精神科や心療内科のデイケア
- 就労移行支援事業所
- 就労継続支援事業所
- 若者サポートステーション
- 生活支援センター
また、自治体や民間団体が開催している場合もあります。参加にあたっては、医療機関の紹介や支援機関への相談が必要なケースもあります。自分の状況に合った場を探すことが大切です。
まとめ
発達障害を持つ方にとって、コミュニケーションの困難は決して珍しいことではありません。しかし、それを「仕方がない」と諦めてしまう必要もありません。SSTのようなトレーニングを通じて、少しずつスキルを学び、実生活で生かすことが可能です。
大切なのは「自分の特性を理解し、必要なサポートを受けながら練習していくこと」です。できないことを責めるのではなく、「どうすればできるようになるか」に目を向けていきましょう。
コミュニケーションは一朝一夕で完璧に身につくものではありません。しかし、ステップを踏んで練習を重ねれば、確実に変化を実感できます。発達障害の方が自分らしく安心して生活できるよう、ぜひSSTをはじめとしたトレーニングを活用してみてください。