重ね着症候群【ASD等発達障害背景にうつ病などを「重ね着」】

重ね着症候群とは

現代社会において、「うつ」や「対人不安」、「情緒不安定」などのメンタルヘルスの問題は決して珍しいものではありません。特に、これらの症状が長引き、治療を受けても改善が見られない場合、その背景には発達障害が隠れている可能性があります。

このように、もともと発達障害が存在し、その上に精神的な不調が重なる状態を「重ね着症候群」と呼びます。まるで服を何枚も重ね着するかのように、異なる症状が重なって表れることが特徴です。今回は、この重ね着症候群について詳しく見ていきましょう。

重ね着症候群の具体的な例

例えば、幼少期から同級生とうまく馴染めず、一人で過ごすことが多かった方を想像してください。特に目立った問題はなく、発達障害の診断も受けていませんでした。しかし、学校生活の中で発表などの場面があり、話し方や態度の違いを指摘され、クラスメイトからからかわれてしまいます。

その結果、本人は深く傷つき、対人不安やうつ症状を抱えるようになります。不登校が続き、最終的に中退して引きこもることに…。このようなケースがまさに重ね着症候群の典型例です。

この場合、発端となっているのは発達障害による対人コミュニケーションの困難さです。しかし、表面的にはうつや不安障害の症状が目立つため、適切な診断や支援が遅れてしまうことがあります。

重ね着症候群の由来と定義

重ね着症候群は、日本の精神科医である衣笠医師らによって提唱された概念です。彼らの研究によると、長期にわたり治療に難渋する患者の中に、背景として未診断の広汎性発達障害(ASD)を抱えている方が多く見られました。

重ね着症候群の主な定義

・IQ85以上(知的障害や境界知能ではない)
・未発見の広汎性発達障害(ASD)が背景にある
・うつ病や不安障害などの精神不調を合併している

ただし、近年ではこの定義がさらに広がっています。未診断のADHDや境界知能、さらには感受性の強いHSP(Highly Sensitive Person)を持つ方々も重ね着症候群に該当することがあります。

重ね着症候群の主な症状

重ね着症候群の症状は多岐にわたります。主に以下の3つの側面から見ていきましょう。

精神面の症状

・うつ症状(意欲低下、興味喪失、自己否定)
・不安障害(対人恐怖、社交不安)
・統合失調症様の症状(被害妄想や幻覚)

行動面の症状

・依存症(アルコール依存、ギャンブル依存)
・引きこもり
・衝動的・攻撃的行動

パーソナリティ障害との併存

・境界性パーソナリティ障害(情緒不安定、対人関係の極端さ)
・回避性パーソナリティ障害(他者からの評価を極度に恐れる)

発達障害の特性が目立たない場合も多く、治療を受けても効果が見えにくいのが特徴です。そのため、見落とされやすいことが重ね着症候群の課題となっています。

重ね着症候群の診断プロセス

重ね着症候群の診断は、以下の3つの段階に分けて進められます。

① 疑う段階

・精神疾患の治療が長引いている
・特定の対人場面で極端なストレスを感じる
・ADHDやASDの特徴に本人が自覚を持ち始める

② 幼少期の振り返り

・幼少期の対人関係や行動パターンを丁寧に確認
・小学校時代のこだわり行動や孤立経験があるか

③ 専門的な検査

・WAIS検査や知能検査を通じて知的能力を評価
・精神科医や心理士による詳細な問診を行い、発達障害の診断を行う

重ね着症候群の治療方法

重ね着症候群の治療は、一筋縄ではいかないことが多いため、段階的に進めることが重要です。

① 精神疾患への治療

・抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法
・必要に応じて抗精神病薬を使用

② 発達障害への対策

・ADHDに対しては適切な薬物治療や認知行動療法
・ASDの場合はソーシャルスキルトレーニング(SST)

③ パーソナリティ障害への介入

・感情のコントロールを学ぶための心理療法
・衝動性や対人関係の改善を目指す支援

重ね着症候群の予防

重ね着症候群を防ぐためには、早期発見と早期療育が重要です。

早期発見・早期療育

・幼少期に特性を発見し、早めに専門的な診断を受ける
・療育プログラムやソーシャルスキルトレーニングを活用

ニューロダイバーシティの推進

・発達障害を「特性のひとつ」として捉え、多様性を尊重する社会づくり
・学校や職場での合理的配慮の促進

おわりに

重ね着症候群は、発達障害が見過ごされたまま、精神的な不調が積み重なった結果生じる状態です。適切な診断と支援を受けることで、回復の道が開ける可能性が高まります。

今後は、社会全体での理解を深め、多様性を受け入れる環境を整えることが求められます。誰もが自分らしく生きられる社会の実現に向けて、一人ひとりができることを考えていきましょう。