うつ病・適応障害セルフケア:「視点を選ぶ」ことの重要性
はじめに
うつ病や適応障害の治療において、ストレスへの対処は非常に重要な課題です。私たちが日常生活を送る中で、新しいことに挑戦したり、予期せぬ出来事に直面すると、さまざまな形でストレスが発生します。そのストレスとうまく付き合い、心の健康を維持するためには、適切な対策を取ることが大切です。
今回取り上げるのは、その対策の一つとしての「視点を選ぶ」ことについてです。心理学の分野では、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)という治療法があり、そこで「心理的柔軟性」が重要視されています。その中の概念の一つに、「視点の取得(perspective taking)」があります。これは、さまざまな角度から物事を捉え、状況に応じて適切な視点を選択する能力を指します。
私たちは、日々の生活の中で、無意識のうちに特定の視点に固執してしまうことがあります。しかし、状況に応じて視点を柔軟に切り替えることで、ストレスを減らし、より適切な判断を下すことが可能になります。本記事では、「視点を選ぶ」ことの具体的な方法と、それがストレス対策にどのように役立つのかを詳しく見ていきます。
視点の種類
視点を選ぶことについて考える際、大きく分けて二つの視点があります。
1. 当事者の視点(ミクロ的視点)
当事者として、その場に入り込み、積極的に関与する視点です。
メリット
・物事を「自分事」として捉えられるため、強い熱意を持って取り組むことができる
・目の前の課題に集中しやすく、具体的な行動を起こしやすい
デメリット
・視野が狭まり、特定の考えに固執してしまうことがある
・問題を抱え込みすぎて、悪循環に陥るリスクがある
2. 俯瞰の視点(マクロ的視点)
状況を一歩引いて、全体像を客観的に眺める視点です。
メリット
・問題を冷静に分析し、論理的な解決策を見つけやすい
・物事を長期的な視点で考えることができる
デメリット
・当事者としての熱意を持ちにくく、行動力が低下することがある
・現場に関与しないため、実際の状況を肌で感じにくい
視点の切り替えが必要な場面
視点を固定したままでいると、ストレスを適切に処理することが難しくなることがあります。以下のような場面では、意識的に視点を切り替えることが重要です。
場面① 考え事の悪循環(当事者の視点に固執するケース)
悩みごとを深く考えすぎて、解決策が見つからず、同じ思考をぐるぐると繰り返してしまうことがあります。これが続くと、不眠や不安感の増加、さらにはうつ状態へとつながることもあります。
解決策
・視点を変える:当事者の視点から一歩引き、俯瞰の視点を取る
・客観的に考える:自分が他人だったら、この問題をどう見るかを考えてみる
・紙に書き出す:思考を整理し、問題点を可視化することで、冷静に状況を分析する
場面② 回避(俯瞰の視点に固執するケース)
常に全体像を見ているものの、行動を起こさず、問題から距離を取ったままになってしまうことがあります。これは、ストレスを避けようとする心理が働いているためです。しかし、過度な回避は、結果としてストレスの根本的な解決を妨げます。
解決策
・まずは一歩踏み出す:「やるべきことはわかっているが、実行できない」状態であれば、とりあえず小さな一歩を踏み出す
・行動を通じて状況を把握する:実際に関与することで問題の本質が明確になり、解決策が見えてくる
・不安を細分化する:「何が不安なのか?」を具体的に掘り下げ、不安を小さく分解する
視点の使い分けが大切
人によって、どちらかの視点に偏りやすい傾向があります。
ミクロ的な視点に偏る人
・問題に深く関わりすぎてしまい、冷静さを失いやすい
・小さな失敗を引きずり、悪循環に陥ることがある
マクロ的な視点に偏る人
・物事を冷静に見るが、行動力が不足しやすい
・「どうせ無理」と考え、挑戦する意欲を失いやすい
どちらの視点にも強みと弱みがあります。状況に応じて柔軟に視点を切り替えることが大切です。
・考えすぎてしまうとき → 一歩引いて俯瞰する
・行動に移せないとき → 勇気を持って当事者として関わる
「視点の切り替え」は才能か努力か?
「視点の切り替えは才能なのでは?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。確かに、一部の人は生まれつき柔軟な思考を持っています。しかし、これは努力によって鍛えることも可能です。
例えば、スポーツにおいて、天才的なプレイヤーもいれば、努力によって成長するプレイヤーもいます。日本代表レベルの実力を持つことは才能が必要かもしれませんが、「ほどほどにストレスを処理できる力」を身につけることは、誰でも練習次第で可能です。
視点の切り替えも同様に、日常生活の中で意識的に練習することで、柔軟性を高めることができます。
まとめ
「視点を選ぶ」ことは、ストレス対策として非常に有効な手段です。
・当事者の視点(ミクロ)と俯瞰の視点(マクロ)を適切に使い分ける
・状況を観察し、どちらの視点が必要かを見極める
・視点の切り替えは練習次第で身につけることができる
日々の生活の中で意識的に視点を変える練習をすることで、ストレスを減らし、より健やかな心の状態を維持できるようになります。