あえて冷たくする低体温療法とその看護について。
低体温療法は、医学的に意図的に体温を低下させる治療法であり、脳の保護を目的とした高度な医療技術の一つです。
この記事では、低体温療法の基礎知識、その適応と治療プロセス、リスク、そして看護における重要なポイントについて詳しく説明します。
低体温療法とは

低体温療法とは、深部体温を意図的に32~34℃にまで冷却し、その後48時間をかけてゆっくりと元の体温に戻す治療法です。
この治療法は、脳代謝を低下させ、脳機能を保護することを目的としており、特に心肺停止後に蘇生した患者に適用されます。
心肺停止後は、脳に酸素が一時的に供給されないため、脳細胞が損傷を受けやすい状態です。
その結果、脳が体温調節機能を失い、高体温状態になることがあります。
この高体温は脳細胞のたんぱく質や脂質に悪影響を与え、脳機能障害を引き起こす可能性があります。
そのため、低体温療法を行い体温を低下させることで、脳細胞へのダメージを軽減します。
適応と実施基準
低体温療法は、心肺停止後の患者すべてに適用されるわけではありません。
一般的には次のような条件を満たす患者が適応とされています
- 目撃者がいた心肺停止
現場で迅速な胸骨圧迫や蘇生行為が行われていた場合が重要です。 - 最初の波形チェックでVTまたはVF
心室細動や無脈性心室頻拍が見られる患者が対象となります。 - 自己心拍再開後、循環動態が安定していること
心拍が再開しているものの、循環が十分に維持されていることが必要です。
実際には、これらの条件に完全に一致しない場合でも、低体温療法が考慮されることがあります。
治療に用いられる機器
低体温療法では深部体温を基準に管理され、膀胱温や直腸温が測定されます。
膀胱温はセンサー付きのカテーテルを挿入して測定しますが、尿量が少ない透析患者には別の方法が選ばれます。
さらに、「サーモガード」などの機器を用いて、代替静脈からカテーテルを挿入し、血液を冷却または加温します。
しかし、この方法では血栓形成のリスクが高いため、注意深い管理が求められます。
治療の三段階と看護

低体温療法は、導入期、維持期、復温期の三段階に分かれており、それぞれの段階で異なる症状やリスクが発生します。
以下に詳しく解説します
- 導入期
導入期は体温を32~34℃に急速に低下させる段階です。
この過程で以下の症状が見られる可能性があります。
・ 循環抑制
血圧や脈拍が低下するため、バイタルサインの変動に注意が必要です。
寒冷利尿による脱水も起こるため、体内外の水分バランスを細かく管理することが重要です。
・ 高血糖
低体温によってインスリンの分泌が低下し、糖分が細胞に取り込まれず高血糖状態が発生します。
この影響で浸透圧利尿が加わり、電解質異常を引き起こすリスクがあります。
・ シバリング(震え)
体温低下に伴う筋肉の収縮が熱産生を試みますが、これが酸素消費を増加させるため、鎮静剤や筋弛緩薬で管理します。
- 維持期
維持期は、目標体温を安定的に保つ期間です。
この段階では以下の注意点があります。
・ 感染症のリスク
低体温が白血球の機能を低下させ、感染症のリスクが高まります。
さらに、鎮静薬の影響で咳反射が抑制され、痰の排出が難しくなるため、無気肺や肺炎が起こりやすくなります。
・ 褥瘡のリスク
血流障害や長期安静が原因で褥瘡が発生しやすくなります。
定期的な体位変換や皮膚状態の確認が不可欠です。
- 復温期
復温期は体温を元に戻す段階であり、慎重な観察が必要です。
・ 高カリウム血症
細胞内に蓄積していたカリウムが血中に戻り、致死性不整脈を引き起こすリスクがあります。
・ 低血糖
インスリンの分泌機能が改善し、低血糖状態になるリスクがあるため、血糖値の頻繁な確認が必要です。
急激な体温上昇はこれらのリスクを高めるため、1~2時間で体温を0.1℃上昇させるよう、治療機器の管理が求められます。
低体温療法と看護の重要性
低体温療法は患者の生命を守るために重要な治療ですが、同時に慎重な看護が求められます。
特に以下のポイントが重要です。
・ 深部体温やバイタルサインの定期的な観察
・ 感染症や褥瘡を防ぐためのケア
・ 電解質異常や血糖値の変動をフォローし、適切な対応を行うこと
・ 患者の状態を多職種と共有し、適切な判断を行うこと
まとめ
低体温療法は、心肺停止後の患者の脳機能を保護するための重要な治療法です。
しかし、導入期から復温期に至るまで多くのリスクが伴うため、医療者が注意深く管理し、適切な看護を提供することが不可欠です。
この記事が低体温療法を理解する一助となれば幸いです。