CO2ナルコーシス:その原因と病態
CO2ナルコーシスとは、体内に過剰な二酸化炭素(CO2)が蓄積することで意識障害を引き起こす状態を指します。「ナルコーシス」という言葉は、昏睡を意味します。この状態の発症初期には、頻脈や発汗、頭痛などの症状が現れ、次第に意識がもうろうとして最終的には昏睡に陥ります。CO2ナルコーシスの代表的な三大症状として、意識障害、高度な呼吸性アシドーシス、自発呼吸の減弱が挙げられます。

呼吸調節の仕組み
人間の呼吸は、主に脳の延髄にある中枢化学受容体によって調節されています。この受容体は、体内の二酸化炭素濃度を感知して、呼吸の頻度や深さを調整しています。わかりやすい例として、息を止めると徐々に苦しくなり、やがて呼吸を再開せざるを得なくなるのは、この中枢化学受容体が働いているためです。二酸化炭素が蓄積すると、これを排出するために呼吸が促進されるという仕組みです。
しかし、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の場合、この仕組みに変化が生じます。COPDは呼気が困難になる病気であり、そのため体内に二酸化炭素が慢性的に蓄積しやすい状態となります。この環境に長期間さらされると、延髄の中枢化学受容体が二酸化炭素濃度の変化に鈍感になってしまうのです。
末梢化学受容体の役割
COPD患者においては、中枢化学受容体の働きが鈍るため、呼吸の調節は主に末梢化学受容体に依存します。この受容体は、頸動脈小体や大動脈小体に存在し、動脈血の酸素濃度の低下を感知して呼吸を促進する役割を担います。つまり、COPD患者は体内の酸素濃度の変化に特に敏感であり、酸素の増減が呼吸の主な調節要因となります。
CO2ナルコーシスの発症メカニズム
COPD患者に対していきなり高濃度の酸素を投与すると、体内の酸素濃度が急激に上昇します。この結果、末梢化学受容体は「酸素が十分にある」と認識し、呼吸を抑制するように働きます。これにより、有効な換気が行われなくなり、次第に以下の状況が進行します。
- 二酸化炭素が体内に蓄積し、血中濃度が上昇(高二酸化炭素血症)。
- 血液が酸性に傾き(呼吸性アシドーシス)、組織に酸素が供給されにくくなる。
- 脳への酸素供給が不足し、意識障害が進行する。

このようにしてCO2ナルコーシスが発症します。
診断と対応
CO2ナルコーシスの診断には、患者の症状や既往歴、意識障害の進行経過の確認が重要です。また、血液ガス分析を行い、動脈血中の二酸化炭素分圧(PaCO2)の値を測定することで診断を確定します。
発症が疑われた場合、迅速な対応が必要です。以下の手段を用いて換気をサポートし、体内の二酸化炭素を排出します。
- バッグバルブマスクによる換気補助
- 人工呼吸器の使用

これらの処置により、二酸化炭素を強制的に排出し、血液の酸性化を改善します。
予防と注意点
CO2ナルコーシスは緊急性の高い状態であり、発症を防ぐためには適切な酸素投与が欠かせません。特にCOPD患者に対しては、高濃度酸素の投与を避け、低流量酸素療法を徹底することが求められます。また、患者の状態を常に観察し、異常を早期に発見する体制を整えることが重要です。
CO2ナルコーシスは、適切な知識と注意深い管理があれば予防可能な病態です。しかし、一度発症すれば迅速な対応が求められます。医療従事者として、リスクを正しく理解し、適切な対応を準備しておくことが患者の命を救う鍵となります。
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