どうしてST上昇?心筋梗塞の心電図波形と原理
心筋梗塞は、心臓の冠動脈が詰まることで心筋が壊死し、生命に危機を及ぼすことがある疾患です。
その診断において重要な役割を果たすのが心電図検査であり、特にST部分の上昇が代表的な所見として知られています。
しかし、心筋梗塞の中にはSTが上昇しないタイプ(NSTEMI:非ST上昇型心筋梗塞)も存在します。
本記事では、心筋梗塞の心電図波形におけるST部分の変化と、その背後にある原理を解説するとともに、STが上昇しない場合についても詳しく説明します。
心電図とST部分の基本理解

まず、心電図のST部分とは、心臓が収縮を終えて次の収縮に向けて準備を始めるまでの短い時間を指します。
この時期は「不応期」と呼ばれ、外部からの刺激に反応しないため、安定した状態を示します。
心電図においてST部分が基線から逸脱することは、心臓の状態に異常があることを示唆します。
急性心筋梗塞の場合、心電図でST部分の上昇が見られることが多く、これが診断の重要な手がかりとなります。
基線から0.1mV以上の上昇が、2つ以上の連続した誘導で認められる場合、急性心筋梗塞が疑われます。
ST部分が上昇するメカニズム

心筋梗塞と障害電流
心電図は、心臓の筋肉が発生する電気信号を捉えて波形として表示します。
心臓が正常に動いている場合、心電図の波形は一定の基準に従います。
しかし、冠動脈が詰まり心筋梗塞が起こると、酸素不足によって心筋が損傷し、その部位に炎症が発生します。
この炎症部分では「障害電流」と呼ばれる異常な電気信号が発生し、心電図波形に影響を与えます。
障害電流は、虚血部分から心筋の左右に向かって流れます。
心電図がこれをモニタリングすると、通常とは異なる電気信号を「遠ざかる刺激」として捉え、基線を下げて表示してしまいます。
しかし、ST部分は不応期であるため、障害電流の影響を受けません。
この結果、ST部分だけが元の位置にとどまり、相対的にSTが上昇して見えるのです。
NSTEMI(ノンステミ):ST上昇が見られない心筋梗塞

急性心筋梗塞の中には、ST部分の上昇が見られないタイプもあります。
このような心筋梗塞はNSTEMI(非ST上昇型心筋梗塞)と呼ばれます。
NSTEMIでは、以下の理由によりST上昇が起こらないことがあります。
- 冠動脈末端や小さな血管の閉塞
冠動脈の抹消部分が閉塞している場合、梗塞範囲が小さく、心電図にST上昇として現れないことがあります。 - 側副血行路の発達
バイパス血管(側副血行路)が発達している場合、詰まった血管を補う血流が確保されるため、ST上昇が認められないことがあります。
~NSTEMIの心電図所見~
NSTEMIでは、ST上昇の代わりにSTの低下が見られる場合があります。
この原因も障害電流にありますが、流れる方向がSTEMI(ST上昇型心筋梗塞)とは異なります。
冠動脈の末端が閉塞すると、心筋の内膜側が虚血によって壊死します。
この部位に炎症が発生し、障害電流が心電図の電極方向に流れるため、心電図は「近づく刺激」としてこれを認識し、基線を上げて表示します。
その結果、ST部分以外の波形が基線の上昇に引き上げられ、相対的にST部分が低下して見えるのです。
心筋梗塞診断の注意点

心筋梗塞の診断には心電図波形の変化が重要ですが、波形だけで完全に判断することはできません。
特にNSTEMIではST部分の明確な変化がないため、以下のような追加の検査が必要です。
- 心エコー検査
心臓の動きを評価し、虚血部分や収縮異常を確認します。 - 採血検査(トロポニンT)
心筋細胞の壊死を示すマーカーであるトロポニンT値が上昇していれば、心筋梗塞が疑われます。 - 冠動脈造影検査
冠動脈の閉塞部位を特定するために行われます。
特にカテーテル治療を行う際の基礎情報となります。
治療の流れ

心筋梗塞は、早急な治療が求められる疾患です。
治療には以下の方法が含まれます。
- カテーテル治療(PCI)
血管内にカテーテルを挿入し、詰まった部分を拡張して血流を再開させます。 - 薬物治療
抗血小板薬や抗凝固薬を用いて、血管の詰まりを防ぎます。 - 冠動脈バイパス術
重症例では、閉塞部を迂回するバイパス手術が検討されることがあります。
NSTEMIでは、STEMIに比べて緊急性が低い場合もありますが、症例によっては迅速な介入が必要な場合もあるため、慎重な対応が求められます。
まとめ
心電図のST部分は、心筋梗塞の診断において重要な手がかりとなります。
以下に今回のポイントをまとめます。
・ ST部分は不応期に該当し、外部刺激の影響を受けないため、障害電流による基線の変化が相対的にST上昇として現れます。
・ NSTEMIでは、冠動脈の末端閉塞や側副血行路の発達により、ST部分の上昇が見られないことがあります。
・ 心筋梗塞の診断には、心電図波形だけでなく、心エコーや採血、冠動脈造影検査などの複合的な評価が必要です。
心筋梗塞は迅速かつ適切な対応が患者の予後を大きく左右します。
心電図波形の原理を正しく理解し、ST部分の変化を見逃さないことが、救命の第一歩となります。
以上、心電図波形に基づく心筋梗塞の診断と治療の基本をご紹介しました。医療の現場で役立つ情報として、多くの方のお役に立てれば幸いです。