自閉症スペクトラム(ASD)の方々への支援では、知的障害のある方への支援に加え、自閉症スペクトラムの特性や学び方、生活のニーズに応じた支援を行います。ここでは、自閉症スペクトラム固有のニーズに対応するための支援の要点を整理していきます。今回のエピソードでは、応用行動分析学(ABA)を中心に進めていきます。
応用行動分析(ABA:Applied Behavior Analysis)
応用行動分析(ABA:Applied Behavior Analysis)は心理学の一分野で、動物の行動の基本原理を応用して人間の問題を解決することを目指しています。日常的な人間関係の改善から心理療法、スポーツコーチング、企業経営まで、幅広い分野で活用されています。ABAでは、相手の行動は自分の行動や周囲の状況との相互作用の中で起きていると考えています。相手の行動を変えたい場合は、まず自分の行動や状況を変えることから始めます。また、ABAは徹底して人のポジティブな面に注目し、適応的な行動を増やすことを目指しています。この方針は、行動に問題がある場合でも変わりません。
支援プロセスと技法の活用目的
ここではABAの基本原理と技法を、行動上の課題への支援プロセスに沿って説明していきます。
① 行動の具体化
行動の具体化では、支援計画を書くときや記録をとるとき、手順書を作成するときに行動を具体的に表現します。目的や手段が曖昧だったり否定文で書かれていると、何をするのかが分かりません。自分が作成した支援計画が具体的になっているかを次の項目でチェックしてみてください。特に行動に問題がある場合は、できるだけ具体的に書くと良いです。「作業中にパニックになった」を具体的に表現する場合、「材料を投げて壊した」「歯形が残るほど自分の腕を噛んだ」など他の人が聞いたとき、何が起きていたのかイメージできるようにします。
行動を具体的に表現する方法としては、以下のポイントがあります。
・見える、聞こえる
・始まりと終わりがある
・回数を数えたり、時間を測ることができる
・誰が聞いても、見ても同じように理解できる
・肯定文で表現する。「~しない」ではなく「~しないで〇〇する」
② 記録
記録は、行動問題への対応を考える際に最初に行う重要なステップです。記録の目的を明確にし、アセスメント性の高い記録をとります。ABC記録は、行動がなぜ起きたのかを知るために前後の出来事を記録します。
ABC記録の例 【対象者名:Kさん】
| 月日 | 時間 | 事前の状況(きっかけ) | 対象者の行動 | 事後の状況 |
|---|---|---|---|---|
| 8/2 | 7:30 | 食事準備の時間。自室にて一人で何もせずにいた。 | 自室のガラスを叩く | 支援者が部屋に行くとやめる。話をしながら一緒にいた。食事の時間になり移動した。 |
| 8/2 | 19:30 | 支援者が麦茶のボトルを用意しているのを見ていた。 | 廊下のガラスを叩く | 部屋に移動し、話をしながら一緒にいた。お茶の時間になり移動した。 |
| 8/3 | 17:30 | 食事準備の時間。自室に何もせずにいた。支援者は食事準備で食堂にいた。 | 自室のガラスを叩く | 支援者が部屋に行ったがやめなかったため、しばらく部屋にいた。 |
③ ABC分析-機能分析
ABC分析を行い、行動問題にどう対応するかを考えます。利用者がなぜその行動をせざるを得ないのかを考え、「行動の前後に環境がどう変化したのか」から行動の機能を探ります。
行動の機能には次の4つがあります
・物や活動の要求
・関わりや注目の要求
・回避や拒否
・感覚の獲得もしくは感覚の回避
④ 氷山モデル
氷山モデルは、行動問題を理解するための重要な視点を提供します。氷山の水面下には、障がいの特性や心理的要因、環境側の要因が隠れています。行動問題の背景にあるこれらの要因を改善する手立てを講じます。
⑤ 課題分析
課題分析は、複雑な行動からなる活動を細かく分析し、その手順を時間の系列に沿って並べる方法です。Kさんの場合、家事、洗濯、掃除、食事の準備などの適応的な行動を探し出すために活用します。
⑥ 強化の原理
行動の直後に良いことがあると、その行動が増えます。これを強化と言います。望ましい行動を増やすためには、利用者にとって良いこと、嬉しいことをどれだけ知っているかがポイントとなります。具体例としては、食べ物、承認や賞賛、お金、達成感、こだわっていることなどがあります。
⑦ 結果の見える化
記録に基づいて支援を振り返り、結果をグラフ化することで支援の経過を客観的に振り返ることができます。支援会議では、利用者の様子を動画で確認するのも効果的です。
以上が、応用行動分析学を始めとする支援技法と支援プロセスについての説明でした。