新型コロナウイルスの流行をきっかけに、毎日体温測定や咳の確認が日常的な習慣となりました。熱や咳が出て慌てて病院で検査を受けたものの、「特に異常はないのでご安心ください」と言われた経験はありませんか?それでは、一体どこから来る熱や咳なのでしょうか。実は、病院を受診するほどの熱や咳の多くはウイルスや細菌が原因ではなく、ストレスによって引き起こされている場合があります。このように、ストレスが原因で生じる症状を「心因性」と呼びます。ストレスは私たちの感情を不安定にし、その影響が自律神経やホルモン系に伝わって、さまざまな体調不良を引き起こします。今回は、ストレスによる発熱と咳について詳しくご説明します。
心因性発熱について
大きなイベントを控えて突然、40度近い高熱が出ることがあります。たとえば、試験、試合、発表会、あるいは手術の前などに、「行きたくない」と感じる気持ちがそのまま体に現れるかのように熱が出るのです。血液検査などを行っても異常は見つからず、解熱剤もほとんど効果を発揮しません。しかし、イベントが終わると、自然に熱が引くことが多いのです。こうした現象が「心因性発熱」と呼ばれるものであり、特に子どもに多く見られます。発熱で病院を受診した子どもの約20%が、この心因性発熱であるというデータもあります。もちろん、大人にも見られます。
また、37度前後の微熱が長期間続くこともあります。特に、過労や心配事などのストレスが続くと体がだるくなり、日常生活にも支障をきたすことがあります。この場合も検査で異常は見つからず、解熱剤の効果は期待できません。大人の場合でも、2週間以上37度以上の発熱が続き、病院を訪れる患者の約半数が心因性発熱であるという報告があります。
心因性発熱は、ストレスによって感情が不安定になり、その影響が自律神経に伝わって体温を上昇させるものです。一方、通常の発熱はウイルスや細菌の侵入や外傷による炎症が原因で起こります。この場合、炎症物質が作られ脳を刺激して体温が上がるため、血液検査ではこの炎症物質の存在が確認されます。しかし、心因性発熱ではこうした異常は見つかりません。また、解熱剤は炎症物質の生成を抑える働きをするため、心因性発熱には効果がないのです。
心因性発熱を治すためには、原因となるストレスを取り除くことが重要です。「気のせいだから気持ちの問題だ」という考え方は誤りです。実際には、過度なストレスによって心と体が限界に達している状態です。場合によってはうつ病が関係していることもあり、その際は抗うつ薬が効果を発揮することがあります。もし、発熱だけでなく気分の落ち込みややる気の低下が感じられる場合は、精神科の受診をおすすめします。
心因性の咳(心因性咳嗽)について
職場にいる時だけ咳が止まらなくなる、といった症状を経験したことはありませんか?自宅や友人との楽しい時間ではまったく咳が出ないのに、仕事の場では乾いた咳が出てしまい、大事な会話ができなくなることがあります。中には、特定の上司との会話時だけ咳が出るという人もいます。病院で胸部のレントゲンを撮っても異常は見られず、軽い気管支炎や喘息と診断されて薬を処方されることもありますが、効果は期待できません。本来、気管支炎や喘息による咳は常に出るものであり、特定の場面でだけ症状が現れることはないからです。
このような場合、胸や肩甲骨周辺のマッサージが効果を示すことがあり、またストレッチやヨガなど体を動かすリラクゼーションが症状を和らげることもあります。これは「心因性咳嗽」と呼ばれ、ストレスによって感情が不安定になり、自律神経が咳の中枢を刺激することで引き起こされると考えられています。また、ストレスによって免疫力が低下し、気管の炎症が慢性化している可能性もあります。
心因性の咳を治すためには、まず原因となっているストレスを解消することが必要です。寝不足や疲労も原因となるため、しっかり休養をとることが大切です。通常の咳や喘息の薬は効きにくいのですが、柴朴湯や半夏厚朴湯などの漢方薬が有効な場合もあります。